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外国人の目から見れば夫だけが単身で地方に赴任しているという事態は、たいへん奇異なものと見られる。
以上のように、雇用制度や教育制度によって日本の転居率が低くなっていることが考えられるが、さらに大きな要因もある。
それは、広い意味での引越し費用が無視できないことである。
アメリカの住宅は、日本にくらべて引越ししやすくなっている。
多くの人たちが転居することを前提として、住宅が造られているといえる。
このような住宅サービスの質の違いや人々の住みどこから生じるのだろうか。
以下では、経済学的な観点からこの理由を考えてみよう。
低い転居率が通勤費を高めている「K」(1996年版)によると、日本では平均すると、1年間におよそ6%の世帯が転居している。
これに対して、アメリカではおよそ17%、イギリスでもおよそ11%の世帯が転居している。
持家と借家世帯とに分けると、持家については、日本では約2%の転居率に対してアメリカはおよそ8%と、その差はきわめて大きい。
借家の世帯でも、日本では15%の人が転居しているのに対して、アメリカでは3二%、イギリスでは4O%という高い値を示している(表511)。
日本では、このように転居率が低いために、いろいろな問題が発生している。
いったん住居を構えると、人々はなかなかそこから転居しないために、通勤費用や輸送費用の社会全体の合計は、最適な水準をかなり上回っているという実証結果が報告されている。
この研究によれば、住宅や企業の配置を適当に変更することによって、つまり企業や人々を住み替えさせることによって、社会全体の輸送費用や通勤費用をもっと少なくすることができる。
いい換えると、現状では、必要以上に遠くから通勤している人々がいる一方で、通勤する必要のない人々が都心に居住していることになる。
もちろん、これは輸送費や通勤費の総合計を最小にするために、どのように人々を配置させるべきかという問題を解いているにすぎない。
ここでは、住替えによって発生する費用を考えていないから、このような結果が出ているのである。
住替えによる移転の費用を考慮すれば、現状はそれなりに合理的なものであり、住替えの費用と通勤の費用の合計を最小にするように人々は行動しているはずである。
しかし、そのような高い移転費用が合理的なものかどうかを考えなければならない。
住替えの費用を高めているのは、どのような要因であろうか。
住替えの費用を下げることによって、人々の転居率を高めることができるならば、それによって通勤費用や輸送費用を下げることも可能である。
社会全体の効率性を改善するために、何か良い方法はないのであろうか。
人為的な理由から、人々の住替えを阻害する要因が発生しているのではないだろうか。
人々の転居率を下げている一つの大きな原因として、まず考えられるのは借地借家法である。
これは、借家の転居率を下げている。
なぜなら、すでに述べたように、日本の借地借家法のもとでは正当事由がなければ、契約期間が終了しても借家人を追い出すことができないからである。
借家人にとっては、みずから進んで転居していくことはあまり合理的ではない。
強い借家権保護があるために、人々はなかなかそのアパートを立ち去ろうとはしない。
強制的に立ち退かせられることもないし、また家賃の値上げに対しては、裁判という方法もある。
その結果、家主は家賃を引き上げることもできない。
ひとたび借家に住んだら、そこから自発的に転居していくのは、あまり合理的とはいえない。
ここで興味深いのは、京都の住宅事情である。
京都では、東京の数倍も高い敷金や礼金が要求される。
東京では、およそ家賃の二カ月程度が敷金・礼金として要求されるのに対し、京都では4~5カ月というのが相場である。
ただし、更新料は家賃の一カ月分程度である。
したがって、住み続けるかぎりは、それほどコストは高くはない。
これは京都における転居のコストを高めていることを意味している。
これは、借地借家法による借家権保護のために、家主が防衛的に敷金や礼金を高めた結果だと考えられる。
いったん高い敷金・礼金を払うと、転居しようとは誰も思わないだろう。
転居すればまた高い敷金・礼金を払わなければならないからである。
敷金・礼金の高きが、転居率をさらに低くするという悪循環をもたらす。
借地借家法の結果生じた敷金・礼金の上昇が、ますます人々の転居率を低めているのである。
この意味で、自己実現的な均衡が成立していると考えられる。
京都ではおそらく、転居率は東京よりも低くなっているであろう。
京都の借家市場では、このような均衡を維持するような循環的な力がいつも働いている。
京都は閉鎖的で他所者を排除するといわれる原因の一部は、借地借家法にあるのかもしれない。
借家権保護によって転居率が低くなることを予想して家主は敷金や礼金を上げる。
この敷金の上昇は、借家人にとってみれば、転居をいっそう不利にすることになる。
したがって、人々はますます転居しなくなってしまう。
住み始めたら永く住み続けなければならないというのは、住みにくいことをいい換えたにすぎない。
それでは、持家世帯の転居率が低いのは、なぜだろうか。
そのカギは中古住宅市場にあると考えられる。
賃貸借市場では借地借家法の存在のために転居率が低くなっていると考えられるが、持家世帯にとってみれば、中古住宅市場の特徴が転居率を下げていると考えられる。
再び、「K」(1996年版)で、日米の中古住宅市場での売買量を調べてみよう。
アメリカでは年間約420万戸が中古住宅市場で売買されている。
これに対し、日本では約17万戸程度が売買されているにすぎない。
全体の住宅ストック量に占める割合は、アメリカではおよそ4%、日本では0・41%程度である。
日本ではアメリカのおよそ10分の一しか売買されていない。
イギリスではどうかというと、全持家住宅の約6%の中古住宅が売買されている。
これらの数字を見るとわかるように、日本は転居もしないし、中古住宅市場で住宅を売買する実績もない。
もう一つ興味深いデータは、住宅寿命についてである。
同じく「K」(1996年版)によれば、日本の住宅の寿命はおよそ26年といわれている。
アメリカのそれは44年、イギリスでは75年であることを考えると、日本の住宅寿命の短さは非常に特徴的である。
いったいなぜ、住宅寿命がこんなに短いのだろうか。
そして、中古住宅市場の回転車が低いのは、どうしてなのであろうか。
住宅寿命の短さに対する回答の一つは、木造だから、というのが多いのではないだろうか。
しかし、木造としても26年という寿命は短すぎる。
地方に行けば、10O年以上たった木造の農家がたくさん存在している。
こういった点を考えれば、木造であるから住宅寿命が短いと考えるのは早計であろう。
ここでもう一つ、興味深いデータを示しておこう。
それは住宅のメンテナンスについてである。
アメリカと日本で、住宅の改善や補修のために、どの程度の資本が投入されたかを調べてみる。
アメリカでは、住宅ストックに対して約一・9%の補修投資をしている。
これに対し、日本は約0・二ハ%という低い値である。
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